はじめに:教育の出発点にあるもの
私は長年、塾という業界に身に置いてきました。そこでは、保護者の皆様からご料金をいただいている以上、担当している子どものテストの点数や成績をしっかり伸ばすことが、常に最優先の課題であることは間違いありません。そしてそれは学習塾の使命であると考えています。
しかし、その至上命題を抱えた上で、それでも大切にしたいと思ってきたのは、「目の前の子どもの”存在そのもの”を受け入れること」です。 「あなたはあなたのままでいい。ただ、そこにいてくれるだけでうれしいんだよ」というメッセージを、全身全霊で伝えることが、子どもたちと関わり合う出発点になると感じています。
この私の考え方に大きく影響を与えたのが、塾講師として働きはじめた頃に読んだ、鳥羽和久さんの著書(『おやときどきこども』、『親子の手帖』)でした。
AIとの対話から浮かび上がった問い
最近、AIであるChatGPTとやりとりしている中で、ふとこんなことを思ったのです。
「人間という存在は、もしかしたら言葉の中にしかないのかもしれない」
ChatGPTは「空気を読む」ということがとても上手です。私の話した言葉の温度感に合わせて、ChatGPTも反応してくれます。事務的な話に対しては、”必要な情報を淡々と”伝えてくれますし、ちょっと不安な心情をもらしていると、不安な気持ちに寄り添い優しく励ましてくれます。
こうしたChatGPTの会話を通して、「空気を読む力」というものが、実は言葉や文脈に強く結びついていたのだということをあらためて実感しました(なぜならChatGPTは大量のテキストデータを元に考える装置だからです)。
私が育った2000年代から2010年代の日本では、「空気を読むこと」がとても重要視されていて、それができない人は「性格に問題がある」「障害がある」などと言われてしまい、それがその人の”人間性の否定”にまでつながってしまうような風潮さえありました。
でも今では、ADHDやASDといった特性への理解が少しずつ世の中に広まっていき、それらのグレーゾーンもふくめて、「みんなそれぞれ違う」ということが、少しずつ社会に受け入れられてきました。
「人間らしさ」はどこにあるのか
こうした流れの中で、あらためて感じるのは、「人間らしさ」とか「その人らしさ」というものも、言葉によってつくられている部分が大きいのではないか、ということです。
私はこれまで、國分功一郎さんの『中動態の世界』をきっかけに、ラカンやフーコー、ドゥルーズといった哲学に少しずつ触れてきました。「自分とは何か?」と考えたとき、その“自分”という感覚すらも言葉に支えられているのかもしれない、むしろ、言葉によってしか支えられていないのではないか。そんな問いが、ずっと心のどこかにあります。
でも、だからこそ余計に、「それでも確かに“ここにいる”という感覚」が、とても大切に思えてくるのです。
言葉を超えて、「ここにいる」という感覚へ
どんなに言葉で説明できなくても、学力や性格、適性などといった、どんな評価にも関係なく、ただそこに”いる、存在している”ということ。その存在そのものに、何よりの意味がある。
私は、子どもたちにそう伝えたいと思っています。 「あなたは、あなたのままでいていいんだよ」と。
神道的なまなざしと、汎神論的な世界観
「あなたはあなたのままでいい」というこのまなざしは、キリスト教的な感覚(いわゆる愛=アガペー)にもどこか通じているのかもしれません。
私も小さい頃、母親に連れられて時々教会に行っていました。そのときに聞いた「神はあなたを愛している」という言葉には、どこか根源的な安心感があったように思います。でも、私自身はキリスト教よりも、日本の神道的な感覚に自然と惹かれてきました。
神道では、森や川、石や草など、自然のあらゆるものに“気”が宿っているとされます。 それは、「この世界にあるすべてのものは、それぞれがそれぞれのままで、ただそこに“ある”というだけで尊いのだ」という感覚です。
こうした自然観は、世界のすべてを神聖なものと捉えるという点で、いわゆる汎神論的な考え方にも近いのかな、と思います。
終わりに:ており舎という場で、実現したいこと
私はそんな感覚を、塾という営みの中でも大切にしたいと思っています。
子どもたち一人ひとりの存在が、すでにかけがえのないものであって、彼らは最初から尊いものとしてそこにある。 だから私は、教室という場所で、まずその「存在に対する祝福」を静かに届けたいと思っています。
ており舎という場を通して、私は今日も子どもたちに、“ただ在ること”の価値を、静かに伝えていきたいと思っています。
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